眠れない悩みは日本人の5人に1人が抱えています。不眠の症状には、寝つけない(入眠障害)、途中で目が覚める(中途覚醒)、早くに目が覚める(早朝覚醒)、寝ても休養感がない(熟眠障害)の4つがあります。一方、不眠の原因・病気には年齢にも応じてさまざまなものがあります。代表的なものを挙げると、

①不眠症:原発性、二次性
②概日リズム睡眠障害
③睡眠時無呼吸症候群
④レム睡眠行動障害
⑤むずむず脚症候群

があります。 

睡眠と覚醒をつかさどるシステムの模式図

[ 睡眠と覚醒をつかさどるシステムの模式図 ]

①不眠症:

 二次性不眠症とはうつ病などの精神疾患や体の病気に伴って生じるものでこれも非常に多くみられます。原発性不眠はそういった他の病気によらずに生じるもので精神生理性不眠症が代表的で、初めはストレス要因があって眠れなくなり、次第に眠れるかという不安や緊張が固定化してしまってストレス要因がなくなっても不眠が続くようになるというものです。睡眠衛生・週間の改善、入眠時の緊張をほぐすトレーニング(漸進的筋弛緩法・自律訓練法)、そして薬物療法が治療となります。長らく睡眠薬には依存性の問題がつきまといましたが、10年程前から依存性のない画期的な薬が開発されています。

②概日リズム睡眠障害:

 ヒトの体内時計は約25時間周期で、自然界のサイクル(1日24時間)とは約1時間のずれがありますが、目から入る光や仕事・学校などの日中刺激でずれを毎日修正して生活しています。この生体の一日リズムを概日(がいじつ)リズムとよび、この調整が乱れた結果不眠をきたすものです。
 概日リズム睡眠障害には年齢層により大まかに2つのパターンがあります。一つは若い方に多いもので夜ふかしが常態化して深夜までねつけなくなる睡眠相後退型、もう一つは加齢とともに増える睡眠相前進型でこれは年齢による概日リズム(体内時計による睡眠サイクル)の変化が一因ですが、過度に早寝しようとする生活習慣が問題であることもあります。いずれもまずは生活習慣の改善を第一として補助的に薬物療法を行います。

③(閉塞性)睡眠時無呼吸症候群:

 肥満、小さい顎、扁桃腺肥大などの要因により寝ているときに気道が狭く閉じてしまい、一時的に呼吸がとまってしまい、一応寝ていても疲労回復が得られず、日中に眠気をもたらすという病態です。かなり世間で知られるようになりましたが、やはり本人は寝ていて気づかないため必要な受診や検査を受けていない場合が多い病気です。要因のなかでは肥満が最も多く、40~50代とくに男性に多くみられ、日本では潜在的に200万人くらい患者さんがいるといわれています。
 寝ているのに日中眠い、家族などから寝ているときの強いいびきや無呼吸を指摘された場合はこれを疑い検査を受けることを推奨します。治療としては原因の除去、それが困難な場合には睡眠中の呼吸を補助する器具(n-CPAP)が最も効果的です。

④レム睡眠行動障害:

 自然な睡眠ではレム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返されています。レム睡眠相では寝ていながらも頭が部分的に働いていて活発に夢を見ます。しかしその間、脳から身体に向けた指令はスイッチが切られており、普通は夢の中で歩き回ったとしても睡眠中に間に体は動きません。ところが、レム睡眠行動障害ではこの身体を動かさないスイッチが働かず、夢とともに身体を動かしたり声を上げるという現象がみられ、睡眠を妨げます。興味深いことにパーキンソン病やその仲間であるレビー小体型認知症の患者さんの大変多くに、そしてそれらの病気が表面化する何年も前からこのレム睡眠行動障害がみられます。これらの神経疾患の原因となる脳への”ごみタンパク質”の沈着によって上記のレム睡眠中に身体を動かさないように伝達する神経経路が障害されるためであると考えられています。レム睡眠行動障害はこれらの神経疾患の診断の手がかりとして大変重要です。治療としては抗てんかん作用もある抗不安薬などが多く使われます。

レム睡眠行動障害
⑤むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群):

 正式病名としては少し妙な名前ですが、白人では4~15%、日本では2~4%とかなり多くの人にみられます。症状は、1)安静時に起こる下肢(典型的には膝より下)の不快感で、2)動かすと不快感が緩和されるため下肢を動かしたい欲求がこらえられない、3)多くの場合夜になるにつれ症状が悪化し、夜に横になってからが最もひどい、といった特徴があります。

 むずむず脚症候群は、鉄欠乏性貧血、腎不全(腎性貧血)、パーキンソン病などさまざまな身体の病気で合併が多くみられます。これらの病気に繋がりがないように見えますが、パーキンソン病で欠乏するドパミンは体内で作られる際に鉄分を必要とします。また、鉄は赤血球の重要な材料です。鉄が不足することでドパミン神経の働きが弱くなり、脊髄において本来ドパミン作動神経が抑えこんでいる感覚刺激が増大した結果このような症状が生じると仮説されています。

 治療としては鉄剤、レム睡眠行動障害でも使用する抗てんかん/抗不安薬、の他にごく少量のパーキンソン病治療薬で症状は非常によく抑えられます。