認知症とは
認知症とは、脳細胞の変性や減少などにより記憶、視空間機能(迷子になる、運転がへたになる、更衣ができない)、計画・推論・判断の能力、言語能力、社会的機能などのいわゆる認知機能が低下し、生活に支障がでるものを指します。この定義はわかりきったことにも思えますが、診断にあたっては、脳細胞の変性・減少ではない別の要因(薬剤、てんかん、身体疾患に伴う一過性の機能低下など)で脳の働きが落ちている可能性を除外する必要があります。また、認知症というとすぐに物忘れと想像されますが、記憶以外の認知機能低下が目立つ認知症もあるため注意が必要です。
中核症状とBPSD
また認知症では認知機能障害(中核症状)の周辺にさまざまな精神症状とそれに関係した行動の問題がみられます。これは「行動・心理症状(BPSD : behavioral and psychological symptoms of dementia)」と呼ばれ、かなり介護者の負担を重くさせる要因となります。BPSDは単に認知障害の副産物ではなく、環境や身体の状況などの影響を受けて出現します。
認知症のタイプ
誰もが知るアルツハイマー型以外にも認知症には複数のタイプがあります。医療者でもあまり理解されていないことですが、認知症の分類・診断は脳の顕微鏡所見が絶対的な基準となります。すると生きている人の脳を切り出すことはできませんので絶対的な診断は亡くなってからでなければできないということになります。しかしそれでは生存中の適切な治療ができませんので、生きている間の分類と診断は症状や画像所見からの臨床的な推定で行います。なお、顕微鏡所見での最終診断では個々のタイプを完全に区分できず重複していることも多くあります(例えば、アルツハイマー型+レビー小体型など)。
このように、認知症のタイプ診断はあくまで症状等からの臨床的診断であることを理解いただいた上で、頻度の多い認知症型をご紹介します。
- アルツハイマー型認知症(AD)
:大脳に異常タンパク質が沈着し、脳細胞の変性と減少が生じます。物忘れ、見当識障害(時間・場所)が目立ちます。 - 血管性認知症(VaD)
:大小の脳梗塞や脳出血による認知症で、アパシー(意欲感情の鈍麻)、緩慢、運動障害(歩行,嚥下など)の症状が目立ちます。 - レビー小体型(DLB)
:ADとは別の異常タンパク質(レビー小体)が出現し脳細胞の機能が低下します。パーキンソン病(認知機能より運動機能の障害が強い)と近縁の病気です。うつ、幻視、時間的変動、パーキンソン症状(身体の動きの減少、こわばりなど)が特徴となります。 - 前頭側頭型(FTD)
:遺伝ほかさまざまな要因により前頭葉・側頭葉が萎縮します。人格変化、異常行動、失語などが目立ちます。
以上にあげた4つの認知症型の割合は2011~12年の調査で図のようになっていますが。当時はまだレビー小体型認知症について十分な認知がされていなかったこともあり、レビー小体型認知症はより多いと思われ、20%程度もあるではないかという推計もあります。また前頭側頭型認知症は自発性低下が目立つためなかなか病院に受診しないことから、実際の数より低く見積もられている可能性があります。
認知症への対応
認知症は早期の発見が重要です。現代の医学では時間を巻き戻すように認知症を治すことはできませんが、限定的な効果ながら進行を防ぐ治療薬があること、将来を予測して本人の自己決定権を尊重できること(財産管理、介護に関する希望)、早期から適切な介護支援環境を作ることで本人と家族(介護者)のQOLをよりよく保つためにも、早い段階から観察し適切なタイミングで介入を始めることが重要です。ご家族が“少し認知があやしいのでは”と考えた時には、医学的にはすでに認知症の状態がみられていることが多くあります。