パーソナリティ障害とは

 そもそもパーソナリティ障害の概念は精神病がないにもかかわらず、社会のなかで病的と考えられるような物事のとらえ方(認知)や行動がみられるような場合を指すものとして生まれました。ここでの病的という意味は、その時代その社会で平均的と考えられる範囲から外れているという意味であり、その偏りがどこまでなら正常でどこからが異常かという明確な境界はありません。つまり狭義の精神病のように健常では全くみかけない異質な精神症状が存在するというものではなく、誰にもあるような人格の弱点が強いようなもの、ということができます。ただその偏った認知や行動によって本人または周りの他人が苦しむようなとき、それは単なる偏りではなく障害として考えるべきものになります。この「または周りの他人が苦しむ」という点はパーソナリティ障害の一つの特徴といえます。

 ここで、パーソナリティ(人格)とは何かという疑問が生じます。人格についてこれまでに多くの理論が提唱されてきました。心理学では人格特徴を5つの因子(神経症傾向、外向性、開放性、誠実性、協調性)に分けてそれぞれの因子の色合い・強弱の組み合わせで記述する方法があります。一方、人格障害に関するモデルとして(1)行動パターン(能動的か受動的か)と(2)対人関係のありかた(依存・独立・両価・分離)を組み合わせで分類する理論、また米国の診断基準ではより具体的に、パーソナリティ障害とは(1)認知(自分・他人・出来事の捉え方)、(2)感情(範囲・強さ・安定性・適切さ)、(3)対人関係、(4)衝動性コントロールの領域での問題があるものと記載されます。しかし、これらは人格の色合いを記録する、臨床的な問題となるケースの判断基準を示す意味では有用ですが、そもそも人格とは何かという問題の焦点がわかりづらいと思われます。

パーソナリティ障害の診断基準

 ここで将来新しい基準となる可能性があるモデルが米国の診断基準において提案されているのですが、そこでは人格とは何かを的確に要約されています。すなわち、人格機能とは、(1)自己に関する機能:独立性・安定性・目標に向かう志向性、と(2)他者と関係する機能:他者への理解と尊重、親しい関係を築き維持すること、という大まかに2つの点に集約されています。そしてこの自己機能と対人関係機能を阻害するものが、広範囲に及ぶネガティブな感情や、他者の回避や他者への一方的要求や敵意、短絡的な欲求に基づく行動、精神病類似の奇妙な認知行動などでありこれらの阻害要因が強いときに病的なパーソナリティであると考えられます。

 なお現行ではパーソナリティ障害は3つの群に分けられる10タイプが挙げられていますが、これらは大体100年ほど前に記載された類型が引き継がれたものです。あくまでこれらは典型例を描いたモデル的類型であって、実際には1人のなかに複数のタイプの特徴がみられたりしますのできっちりこの分類に区分されるものではありません。

 またパーソナリティには一定遺伝的な要素があると考えられ、生育環境も含めてその人が自分で選び取ったというものではありません。最後にパーソナリティ障害は不治不変のものではなく、時間経過のなかでかなりの割合で障害の水準から脱するということが近年の調査で示されています。