統合失調症とはなにか、という問題は100年以上にわたり近現代精神医学の中心的テーマでした。これまでの膨大な研究、議論を簡単に結論づけることは非常に難しいですが一つの試みとして要約してみましょう。

統合失調症の病因と疫学:遺伝+環境、100人につき0.5~1人程度

 統合失調症の発症にはまず遺伝的要因が大きな役割を果たしています。しかし決まった一つの遺伝子が伝達されるというものではなく複数の遺伝子が関与した複雑な遺伝的リスクが推定されています。次に、完全に遺伝によって発病が決まっているわけではなく胎内にいるときの環境(低栄養、ウイルス感染)、出産時の合併症(低酸素など)、生まれた後の環境(都市生活、移民、飢餓など厳しい生活環境)もリスク因子となって発症に至ると考えられています。統合失調症は人口の0.7%前後が発症し、まれな病気ではありません。

統合失調症の病態生理:若年で起きる神経変性疾患か

 統合失調症がどのような仕組みで発症し、どのような症状を出現させるのかについて様々な仮説がありいまだ全貌は解明されていませんが、一つ客観的事実としていえるのは、統合失調症とは脳神経細胞が減少する結果に至る脳の疾患であるということです。これはパーキンソン病やアルツハイマー病と似たような進行性の神経変性疾患であろうということですが、ただパーキンソン病などと大きく異なるのは発症が思春期から青年期という若年であるという点です。この違いはパーキンソン病やアルツハイマー病では加齢にしたがって脳にごみタンパク質が蓄積した結果として発病するのに対し、統合失調症では遺伝子要因によって時限タイマー的にこのような変性が始まるのではないかと考えられます。

統合失調症の経過:

  • 発病前期:ごく軽度の運動や社会機能の問題がみられるとの報告もありますが生活上の問題はありません。
  • 前駆期:固有の症状はみられませんが、不眠、不安緊張、強迫症状、集中困難で成績が低下するなどの変化がみられる時期が平均3年程度先行します。詳細にみると微かな幻覚や妄想様の症状もみられるといわれ、この段階で発症予備軍を把握し早期介入することでその後の経過を改善できないかという取り組みが近年行われています。
  • 進行期(急性期):幻覚や妄想ほか統合失調症に特徴的な症状が表面化し、その背後では脳細胞の喪失と認知障害が進行します。この時期になって初めて確定診断ができますが、患者さんの将来にとって重要なのはこの進行期をできるだけ短くすること、つまり症状が明らかになってからできるだけ早く結びつけこの期間を早期に終わらせることが重要です。
  • 安定期(慢性期):華々しい進行期の症状が落ち着いたあと、陰性症状と認知障害が目立つようになり生活・社会的機能が落ちた状態が明らかとなります。この時期では、再び進行期(さらなる機能低下)を繰り返さないように服薬治療を継続すること、社会技能訓練や就労支援などによる社会機能の改善が重要となります。
統合失調症 経過図

統合失調症の症状と多様性

 統合失調症には多彩な症状があり、昔からその症状の一つ一つについてどのような精神機能の働きで生じるのか、どれほど統合失調症に特異的なものかといった考察がなされてきました。1980年頃からは多彩な症状を整理するものとして陽性症状と陰性症状、という区分けが普及しました。

(1)陽性症状とは健康な状態ではみられない精神現象が生じているもので、幻覚・妄想・(多くの場合は)思考障害を含みます。一方、(2)陰性症状とは健康な状態ではあるべき精神活動が乏しいという意味で、感情変化・意欲・会話や思考の広がりが乏しいことなどを指します。陽性症状は興奮なども伴いまた明らかに病的と周囲に受け止められるため目立ちますが、薬物療法で改善しやすいという特徴があります。一方陰性症状はひっそりとして気づかれにくくまた薬物の効果は乏しく慢性化します。しばらくはこの陽性/陰性という単純化した図式で理解されてきたのですが、陰性症状と似て非なるものとして(3)認知機能障害の存在が注目されるようになりました。この認知機能障害とは認知症のそれほど強いものではありませんが、判断力、注意力、社会性を保つ機能、軽度の記憶力などの低下があり、これらが社会生活を阻む大きな要因となります。

統合失調症 症状群図式

また、統合失調症では症状と関連してその時間経過にも多様性がみられます。統合失調症の症状経過の典型モデルがいくつか指摘されています。

  • 破瓜型:思春期発症,思考障害と陰性症状が急速に発展し、機能低下が重い。
  • 妄想型:中年期以降,被害妄想が中心、機能低下は軽い。
  • 緊張型:青年期発症,強い興奮と昏迷(周囲への反応が乏しくなる)が出現。機能低下は軽いが再発しやすい。


 統合失調症の予後20%は社会適応の面で良好な経過をたどり、 40~50%は症状を残しながらも日常生活を営むことできるほどの回復がみられます。残り 20~30%は再発再燃を繰り返したり陰性症状・認知障害が目立ち様々な社会的支援を必要とする経過となります。
 このような多様な病態が統合失調症という1つの病名にまとめてよいのか、一体、統合失調症の定義とはなんでしょうか。これには2つの回答があります。
まず1つには多彩にみえるなかでも共通する特異的な症状があるというものです。その症状とは思考障害(連合弛緩)です。なかなかわかりにくく説明しづらい症状ですが、言葉または観念と観念の当たり前のつながり(:連合)がゆるみ(:弛緩)、その思考の道筋が他人にはついていき難いものになるといったものです。先ほど思考障害を“多くの場合”陽性症状に含めると書きましたが、厳密に言えばこれは陽性症状にも陰性症状にも組み入れがたい症状です。
 次の定義は、共通する経過によるものです。すなわち、比較的若い年代に発症すること、多少なりとも生活・社会機能の低下をきたすことが統合失調症の共通特長だという考え方です。この考え方によって、100年前には統合失調症は“早発性痴呆”という名称で呼ばれていました。これは現代語に置き換えると“若年性認知症”に近い意味となります。

統合失調症の治療

 治療の要点は、症状が顕在化した後にはできるだけ早くしっかりとした薬物療法を行い、機能低下をもたらす進行期を短くすること、進行期が終わったあとは再発(さらなる機能低下)を防ぐために油断せず薬物療法を継続すること、また患者さんそれぞれの機能状態に応じ社会参加を目標とした社会的支援につなげることです。