‘自律神経失調症’‘心身症’とは
しばしば、受診する方が尋ねてこられる病名として“自律神経失調症”という言葉があります。また最近はあまり聞きませんが“心身症”という病名もよく聞かれました。これらは精神医学分類では正式な病名ではないのですが、意味するところは「心(精神)の課題が直接的に気分や考えなど精神的不調と自覚される症状をもたらすのではなく、からだ(身体)の症状として主に現れる病状」というものです。
‘‘自律神経失調症’‘心身症’の診断
心と連動する体の症状としてもっとも現れやすいのが、睡眠・体温・循環・呼吸消化・筋緊張などの生命活動をふだん意識されない形で保っている自律神経の乱れ(失調)であり、結果として不眠、微熱感、動悸、食欲不振、胃痛、肩こり、倦怠感など正常なときに自覚しない体の部分・機能が不快感として意識されます。
ただ、自律神経症状は、多くの精神疾患の症状の一部として出現しますから、それがあったからすなわち自律神経失調症ということではありません。情動や思考などに目立った症状があればうつ病や不安障害はたまた統合失調症などの診断になります。
先ほど正式病名ではないと書きましたが、“自律神経失調症”や“心身症”は現在の精神医学分類では「身体表現性障害」のカテゴリーに含まれます。
身体表現性障害とは、精神-心理的原因から身体的な症状が出る病気の一群というくくりなのですが色々と問題を抱えています。
第一にその身体的症状が精神由来のものという推定は内科的な診察・検査で判断されなくてはならないのですが、どの程度まで詳しく調べるべきなのかがぼんやりとしています。このことは診断する側の確実性という問題もありますが、「見逃されている体の問題があるはずだ」と強い疑念に因われている患者さんにこれ以上の検査は意義に乏しいことを納得してもらうのが難しいといことでもあります。次に、身体表現性障害の中には病像もまた原因も異なるだろうあまりに多様な病態が含まれているので全体としてのまとまりに欠けるという問題があります。
なお、身体表現性障害のなかで耳目を引くような病像といえば、身体医学では明らかに説明できないような体のあちこちの痛みなどを訴える身体化障害、また神経や筋肉に問題がないのに腕や脚が動かなくなる、声が出なくなるといった転換性障害があります。両者とも‘自律神経失調症’のような自律神経の乱れという説明は難しく、心理的に抑圧された無意識の作用という精神分析的な見方や、また土台にあるパーソナリティの課題を考えることが多々必要となります。
‘自律神経失調症’‘心身症’の治療
身体表現性障害に画一的な治療方法はありませんが、抗うつ薬が一定度有効であります。しかし核心としては自分自身がはっきり気づいていない・目を逸らそうとしている心理的葛藤や心の動きにゆっくり目を向けていけるような精神療法的関わり、また認知行動療法が有用です。